インプラント周囲炎
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【症例】自覚症状のないまま進行したインプラント周囲炎|埋入10年後に抜去を選んだ理由
インプラント周囲炎は、痛みなどの自覚症状がほとんどないまま進行することが少なくありません。今回ご紹介するのは、ご本人が気づかないうちにインプラントを支える骨がほぼすべて失われ、インプラントを抜去(撤去)することになった症例です。 「なぜ治療ではなく抜去を選んだのか」「何が原因と考えられるのか」を、論文のデータとあわせて歯周病専門医が解説します。
目次
1. 患者さんの状態
| 年齢・性別 | 70代 男性 |
|---|---|
| 部位 | 右下の第二大臼歯(いちばん奥の歯)のインプラント |
| 経緯 | 約10年前にほかの歯科医院で埋入されたインプラント |
| 自覚症状 | なし(ご本人は異常に気づいていなかった) |
2. 検査結果:自覚症状がないまま進行していた

インプラントの周りの歯ぐきの下に、黄色い膿が透けて見えます。

横から見た状態。

ポケットの深さを測ると、器具が12mmまで入り、出血と膿が出てきました。
検査の結果は次のとおりでした。
- インプラント周囲のポケットの深さ:12mm(健康なインプラント周囲では、多くの場合これよりかなり浅い)
- 排膿:あり
- 骨の吸収:インプラントの先端付近まで骨が失われていた
- インプラントの動揺(ぐらつき)あり
これだけ進行していても、ご本人には痛みも違和感もありませんでした。インプラント周囲炎は「痛くないから大丈夫」とは言えない病気です。膿が出ているときの考え方は「インプラント周囲炎から膿が出たら?」で解説しています。
3. なぜ治療ではなく抜去を選んだのか
インプラント周囲炎には、汚染されたインプラントの表面をきれいにして骨の再生を図る外科的な治療法もあります。それでも今回は抜去を選びました。理由は次の4つです。
① 骨の吸収が大きく、インプラントがぐらついていた
骨がインプラントの先端付近まで失われ、すでに動揺がありました。インプラントが骨と結合していない部分がほとんどの状態では、残しても機能を回復することは期待できません。
② インプラント表面の汚れを取り切ることが極めて難しい
再生療法を行うには、細菌に汚染されたインプラント表面を徹底的に除染する必要があります。しかし、骨とくっつきやすくするための細かな凹凸がある表面を、深い骨欠損の中で完全にきれいにすることは、現実的にはほぼ不可能です。外科治療の成績がインプラント表面の性状によって左右されることも報告されています(Carcuac 2017)。
③ 表面を削る方法(インプラントプラスティ)には別の懸念がある
インプラントのねじ山を削って表面を滑らかにする「インプラントプラスティ」という方法もあります。ただし、削る際にチタンの微粒子が大量に発生することが分かっており、その粒子が細胞に悪影響を与える可能性が実験レベルで報告されています(Barrak 2020、Toledano-Serrabona 2022)。今回のように骨欠損が深い場合は削る範囲も広くなるため、後々の影響も考慮しました。
④ 治療しても「治りきる」とは限らない
外科的治療の5年後の成績を調べた研究(Heitz-Mayfield 2018)では、治療が成功した患者さんは63%、炎症が完全に消えた(出血がまったくない)インプラントは42%にとどまりました。これは治療の対象となった症例での成績で、今回のように骨がほぼすべて失われ、ぐらつきもある状態では、さらに厳しくなると考えられます。当院の臨床経験でも、進行したインプラント周囲炎の治療で良好な状態を保てるのは半分前後という実感です。 以上から、インプラントを抜去して病変を取り除き、必要に応じて骨をつくり直してから(GBR)新しいインプラントを入れる方が、長期的にはより確実と判断しました。治療成績について詳しくは「インプラント周囲炎は治る?治らない?」もご覧ください。
4. 原因として考えられること
インプラント周囲炎の原因は一つではなく、いくつかの要因が重なって起こります。この症例では、次のような点が影響したと考えられます。 
撤去した被せ物(左上)、アバットメント(左下)、インプラント(右)。アバットメントの縁に歯石が付いています。
- 歯ぐきの中に歯石が付着していた:アバットメント(インプラントと被せ物をつなぐ部品)の縁に歯石が付着しており、ご自身では取り除けない汚れが長期間たまっていたと考えられます。
- セメントで被せ物を固定するタイプだった:セメントで固定する方式では、歯ぐきの中にセメントが残ると炎症の原因になります。インプラント周囲の炎症がある部位の81%で余剰セメントが見つかったという報告もあります(Wilson 2009)。
- 清掃しにくい被せ物の形:インプラントがやや奥寄りに埋入されていたため、被せ物が手前側に大きく張り出す形になり、歯ブラシや歯間ブラシが届きにくくなっていました。実際に、被せ物を外すと手前側(近心)にプラークが大量にたまっていました。埋入位置のずれは、それ自体よりも、清掃しにくい被せ物の形を生む点で問題になります。研究でも、被せ物の立ち上がりの角度が大きいことがインプラント周囲炎と強く関連すると報告されています(角度45°以上でリスク約9倍:Corbella 2023、30°超で約2倍:Katafuchi 2018)。この症例は、まさに「位置のずれ→清掃しにくい形→プラークの蓄積」という流れが写真から読み取れる例です。
インプラント周囲炎の原因全般は「インプラント周囲炎の原因とは?」で詳しく解説しています。
5. 抜去の処置とその後

被せ物を外した状態。
被せ物とアバットメントを外したあと、スペインBTI社のインプラント撤去用器具(インプラントエクストラクター)を使ってインプラント体を撤去しました。インプラントを逆方向に回して外す器具で、周りの骨を削る量を最小限に抑えられるため、その後に骨をつくり直して再びインプラントを入れる場合にも有利です。処置は1日で終了しています。

インプラントを抜去した直後。
抜去は「治療の終わり」ではなく、病変を取り除いて次の治療に進むための第一歩です。今後は骨の形の回復を見ながら、骨造成(GBR)と新しいインプラントの埋入を治療計画としてご提案しています。現在は、ご本人のご希望により経過を見ている段階です。
6. 症例の概要(費用・期間・リスク)
| 症例の概要 | |
|---|---|
| 患者さん | 70代男性(自覚症状なし) |
| 主な治療内容 | インプラント周囲炎の診査、上部構造・アバットメントの撤去、インプラント体の抜去 |
| 治療期間 | 抜去処置は1日(術後1週間で経過を確認) |
| 費用(自由診療) | インプラント抜去:121,000円(税込) ※今後、骨造成(GBR)や再埋入を行う場合は別途費用がかかります。 |
| 主なリスク・副作用 | 処置後の腫れ・痛み・出血。抜去後に骨の欠損が残るため、再びインプラントを入れる場合は骨造成が必要になることがあります。 |
7. この症例から分かること
- インプラント周囲炎は自覚症状がないまま、骨の大部分を失うところまで進むことがある
- 進行すると、治療で残すよりも抜去してやり直す方が確実な場合がある
- だからこそ、定期的な検査で早い段階に見つけることが何より大切
一方で、早い段階で見つかれば、外科治療でインプラントを残せることもあります。実際に外科治療を行った症例は「【症例】30代・埋入3年で起きたインプラント周囲炎|外科治療で膿は止まったが、ポケットは残った」で、インプラントを残すための除染と再生療法の流れは「【症例・手術動画】インプラント周囲炎で3本中1本を撤去し、2本を再生療法で残した70代女性」で紹介しています。
当院では、インプラントの周りに硬い歯ぐき(角化粘膜)を確保し、清掃しやすい形の被せ物を設計することで、インプラント周囲炎そのものを起こしにくくする治療を行っています。 ほかの医院で入れたインプラントが気になる方は、セカンドオピニオンもお気軽にご相談ください。再発を防ぐための通院については「再発防止のメインテナンス方法」をご覧ください。
参考文献
- Heitz-Mayfield LJA, Salvi GE, Mombelli A, et al. Supportive peri-implant therapy following anti-infective surgical peri-implantitis treatment: 5-year survival and success. Clin Oral Implants Res. 2018;29(1):1-6.
- Carcuac O, Derks J, Abrahamsson I, et al. Surgical treatment of peri-implantitis: 3-year results from a randomized controlled clinical trial. J Clin Periodontol. 2017;44(12):1294-1303.
- Barrak FN, Li S, Muntane AM, Jones JR. Particle release from implantoplasty of dental implants and impact on cells. Int J Implant Dent. 2020;6(1):50.
- Toledano-Serrabona J, Bosch BM, Díez-Tercero L, et al. Evaluation of the inflammatory and osteogenic response induced by titanium particles released during implantoplasty of dental implants. Sci Rep. 2022;12(1):15790.
- Wilson TG Jr. The positive relationship between excess cement and peri-implant disease: a prospective clinical endoscopic study. J Periodontol. 2009;80(9):1388-1392.
- Corbella S, Morandi B, Calciolari E, et al. The influence of implant position and of prosthetic characteristics on the occurrence of peri-implantitis: a retrospective study on periapical radiographs. Clin Oral Investig. 2023;27(12):7261-7271.
- Katafuchi M, Weinstein BF, Leroux BG, et al. Restoration contour is a risk indicator for peri-implantitis: A cross-sectional radiographic analysis. J Clin Periodontol. 2018;45(2):225-232.