インプラント周囲炎は
新しい病気です
インプラント周囲炎とは、インプラント周辺の組織に細菌が感染することで引き起こされる病気です。簡単にお伝えすると、インプラント版の歯周病と言えるでしょう。インプラント周囲炎になる原因は完全には解明されていませんが、「インプラントの表面にプラークが付着する」「悪い噛み合わせによって負担がかかる」「チタンの微細な屑によって引き起こされる」などが考えられています。インプラント周囲炎になってしまった場合、どのような原因であっても速やかに処置することが大切です。
また、インプラント周囲溝内には、細菌などの異物を分解する働きを持つ「好中球」という免疫細胞が存在しています。身体を守る免疫細胞ですが、微小なサイズのチタン粒子に触れることで酵素を放出し、長期にわたる炎症と周囲組織の破壊をもたらす事も近年の研究から明らかになりつつあります。
インプラント周囲炎は、インプラント治療の普及と共にみられるようになった新しい病気であり、まだまだ明らかになっていないことも多くあります。また、自覚症状が出にくく気がついた時には重症化していることが少なくありません。せっかく入れたインプラントを長く使い続けるためには、定期的なメインテナンスやチェックが重要です。
院長の福嶋太郎は日本歯周病学会の専門医として、歯周病の治療に対して専門的な知識・技術を持つ歯科医師です。歯周病との共通点が多いインプラント周囲炎の治療・予防にも大きなアドバンテージがあります。ぜひ、ご相談下さい。
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1分で診断可能
インプラント周囲炎
インプラント周囲炎膜炎
診断テスト
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インプラント周囲炎・周囲粘膜炎のリスクは低いです。
引き続き定期メインテナンスと、セルフケアを行いましょう。
- 「いいえ」の数が1~2個
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インプラント周囲粘膜炎の可能性があります。
患者様ご自身には自覚症状がないため、歯科医院で検査をお勧めします。
自覚症状がある場合は、インプラント周囲炎の可能性があります。早急に歯科医院を受診しましょう。
- 「いいえ」の数が3~5個
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インプラント周囲炎の可能性が高いです。早急に歯科医院での検査と治療を行いましょう。
インプラント周囲炎の
症状
歯肉の腫れや出血
細菌感染により歯茎が炎症を起こし、赤みや腫れなどの症状がみられるようになります。また、腫れた部分を指で押したり、ブラッシングをしたりすることで、歯茎から出血することもあります。
骨縁下欠損の形成
炎症により歯茎の腫れが進むと、人工歯と歯茎の境目に隙間ができるようになります。その隙間に食べかすなどが溜まり不衛生な状態が続くと、炎症がさらに歯茎の深部へと広がり、骨縁下欠損(お堀のような形に骨が溶けてしまうこと)が形成されます。
インプラント埋入部分
からの排膿
細菌感染により炎症が進むと、歯茎が腫れるだけでなく化膿するようになります。化膿した部分からは膿が出る「排膿(はいのう)」がみられるようになり、口臭が強くなることがあります。
歯肉の退縮
炎症が進むと、歯茎や歯槽骨といった歯周組織の破壊が始まり、歯茎が痩せてしまう歯肉退縮が起こります。歯茎が徐々に下がっていき、人工歯が長く見えるようになり、インプラントの接合部が露出して見た目が悪くなります。
インプラントのぐらつき
歯茎や歯槽骨といった歯周組織の破壊が進むと、インプラントがグラグラと安定しなくなります。そのまま放置すると徐々に動揺度が高くなり、最終的にインプラントが抜ける恐れがあります。また、隣接するインプラントや歯にも悪影響を及ぼしてしまいます。
違和感を覚えるようになる
赤みや腫れなどの見た目の症状だけでなく、歯茎にジュクジュクしたりムズムズしたりといった違和感を覚えるようになります。違和感の原因をより詳しく調べると、歯茎が膿んでいるなどの症状がみられることがあります。
インプラント周囲炎の
進行について
正常な状態
インプラント体の接合部がブラッシングにより正しく清掃され、歯茎や歯槽骨といった歯周組織が健康に保たれている状態です。埋め込まれたインプラント体も骨としっかり結合し、違和感やぐらつきはありません。
軽度のインプラント周囲炎
(インプラント周囲粘膜炎)
インプラント周囲の粘膜のみに炎症が起きている状態です。歯茎の赤みや腫れ、ブラッシング時の出血などはみられるものの、インプラントを支える骨(歯槽骨)の破壊は起きていません。
インプラント周囲溝の深さを測定するため「プロービング」を行うと、1つの歯で2か所以上の出血があります。また、インプラント周囲溝の深さは5mm以上あり、放置すると症状がさらに進行するため、早めの治療が必要です。
重度のインプラント周囲炎
炎症の範囲がインプラント周囲の粘膜から、歯槽骨にまで広がった状態です。歯茎の赤み・腫れ・出血だけでなく、膿が出たりムズムズなどの違和感を生じたりします。乳白色の膿が出ることで、口臭の悪化もみられるようになり、人から「息が臭い」と指摘されることもあります。さらに進行して歯周組織の破壊が進むと、歯茎が下がってインプラント体が見えるようになります。また、歯槽骨の破壊が進むことでインプラントがぐらつくようになります。
インプラント周囲炎の分類
「CIST分類」
インプラント周囲炎を分類する方法として、「CIST(シスト)の分類」という指標が使われています。
このCIST分類に照らし合わせ、歯肉とインプラント体との境目にある溝(インプラント周囲溝)の深さや、出血の有無などによってA~Eの段階に分けることができます。精密検査の段階で、A~Eのどの段階のインプラント周囲炎の状態かをしっかりと診断し、その段階にあわせた処置を行っていきます。
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インプラント周囲炎の
リスク因子
歯周病を治さずに
インプラント治療を行った
歯周病の人は、歯周病菌が口腔内に多く存在しています。そのため、歯周病を治さずにインプラント治療をすると、細菌感染を起こしてインプラント周囲炎にかかるリスクが高まります。
治療後のセルフケアや
メインテナンスが不十分
口腔内が不衛生な状態が続くと、歯周病菌が増殖しやすくなります。セルフケアや歯医者でのメインテナンスを怠ると、プラークや歯石が溜まりインプラント周囲炎にかかるリスクが高まります。
糖尿病などの持病がある
糖尿病などの持病がある方は血流が悪いなどの理由で、術後の傷口の治癒や骨結合の経過が良くない傾向にあります。そのため細菌感染リスクが高く、インプラント周囲炎の発症リスクが高まります。
喫煙習慣
タバコには血管収縮や血流阻害などを引き起こす、ニコチンや一酸化炭素などの成分が含まれています。そのため、喫煙習慣がある人はインプラント周囲炎の発症リスクが高い傾向にあります。
男性はリスクが高い傾向に
インプラント周囲炎は新しい病気であり、まだ明らかでないことが多いです。ただ、女性と比べて男性の方がインプラント周囲炎にかかるリスクが高い傾向にあるという研究データがあります。
上顎の奥歯のインプラント
上顎の奥歯のインプラントの場合、インプラント周囲炎のリスクが高い傾向にあります。埋入する本数が少ないほどリスクが高く、1本(単独)のインプラントは特に注意が必要です。上顎の奥歯のインプラントのリスクが高い理由としては、噛む力が強く大きい負担がかかりやすいことや、汚れが溜まりやすいことが挙げられます。
また、上顎の奥歯は下顎の奥歯のインプラントと比べて骨との結合が弱いことも、インプラント周囲炎リスクを高める要因となっています。上顎の骨は、コンクリートのように硬い下顎の骨と違い、スポンジのような状態をしています。さらに、上の奥歯は埋入位置が限定されてしまうことから短いインプラントを使用するため、インプラントと骨の結合面積が少なくなってしまうのです。
正しい治療が行われていない
インプラント治療は、正しい手順によって精密に行われないとインプラント周囲炎のリスクが高まります。
例えば、骨の厚みが足りない場合は骨造成などの処置を行い、しっかり固定できる状態にした上で、インプラントを埋入しなければいけません。骨造成をせずに、無理やりインプラントを埋入すればインプラントが固定されず、噛み合わせが乱れてインプラント周囲炎のリスクを高めます。
また、口腔内全体を捉えて噛み合わせや清掃性を考慮して治療しないと、汚れが溜まりやすくなりインプラント周囲炎リスクが高まります。
歯茎が不健康な状態である
歯周病により引き締まった歯茎が少なくなると、痛みを感じやすくなりブラッシングが不十分になります。こうしたケースでは、歯茎の移植などにより健康な歯茎を作ることが必要です。移植などの処置を行わずにインプラントを埋入すると、正しいセルフケアを行いにくくなり、インプラント周囲炎リスクを高めます。
歯ぎしりの癖がある
歯ぎしり・食いしばりもインプラント周囲炎リスクを高める要因です。奥歯は、縦にまっすぐかかる力には強いですが、歯ぎしりのような横方向の力にはとても弱いです。インプラントは天然歯と異なり「歯根膜」というクッションがないため、より大きな力がかかって奥歯に悪影響を与えやすくなります。歯ぎしりにより弱った状態の歯と歯茎は細菌感染しやすくなり、インプラント周囲炎リスクが高まるわけです。
初期症状がないからこそ
歯医者でのメインテナンスが大切
インプラント周囲炎は歯茎の腫れや痛みなどの初期症状はほとんどなく、患者様ご自身でインプラント周囲炎を認識することは困難です。そのため、歯医者での定期的なチェックやメインテナンスがとても大切です。
インプラント治療後は、定期的に歯医者に通ってクリーニングなどのメインテナンスによりインプラント周囲炎を予防しましょう。もしインプラント周囲炎が発症しても、定期的にチェックしていれば、早期発見・早期治療でき、インプラントを長持ちできます。