インプラント周囲炎
専用サイト東京 歯周病専門医 福嶋歯科医院監修
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【症例】重度歯周病の方の奥歯インプラント|抜歯即時埋入と歯肉移植(FGG)で周囲炎を予防
重度の歯周病がある方は、インプラント周囲炎になりやすいことが分かっています。だからこそ当院では、インプラントを「入れる」だけでなく、インプラントの周りを長く清潔に保てる環境をつくることまでを治療と考えています。
この症例では、重度歯周病の70代女性の右下の奥歯2本に、抜歯と同時にインプラントを埋入し、2次手術の際に遊離歯肉移植術(FGG)で硬い歯ぐき(角化粘膜)をつくりました。
目次
1. 患者さんの状態
| 年齢・性別 | 70代 女性 |
|---|---|
| 主訴 | 右下の歯を治したい |
| 来院の経緯 | 他院で右下奥歯のブリッジに痛みが出て、被せ物を外して様子を見ていたが改善せず、歯周病の進行と歯ぐきからの出血を指摘され、心配になり来院 |
初診時の歯周精密検査で、広範型 ステージⅣ・グレードCの歯周病と診断しました。歯周病の分類の中でも最も進行した段階で、進行のスピードも速いタイプです。歯周病のリスク分析でも高リスクと判定されました。
歯周病の既往は、インプラント周囲炎の最も重要なリスク因子の一つです(詳しくは「インプラント周囲炎の原因とは?」)。この方のインプラント治療では、歯周病とインプラント周囲炎の両方を見据えた計画が必要でした。
2. 治療計画
患者さんは、まず一番気になっている右下の奥歯をインプラントで治すことを希望されました。そこで、
- お口全体の歯周病の基本治療を行いながら、
- 並行して右下の第一大臼歯・第二大臼歯の2本をインプラントで治療する
という計画を立てました。歯周病の治療を後回しにしないことが、インプラントを長持ちさせる前提です。
3. 1回目の手術:抜歯即時埋入と骨造成
保存が難しい右下第二大臼歯を抜歯し、同じ日にインプラントを埋入しました(抜歯即時埋入)。抜歯と埋入を1回の手術で行うことで、手術の回数と治療期間を短くできます。

抜歯直後の状態。

インプラントを入れる穴を形成し、ピンで方向と平行性を確認します。
穴を形成する際は、低速・無注水で骨を削るバイオロジカルドリリングを行いました。通常の注水下のドリリングでは削った骨が水で流れてしまいますが、この方法では生きた細胞を含むご本人の骨を採取できます。
採取した骨は、ご自身の血液からつくるPRGF(成長因子を多く含む血漿)と混ぜ、骨が足りない部分に補いました。どちらもご本人由来の材料です。

ご自身の血液からつくったPRGF。

インプラント埋入後、自家骨とPRGFを骨の足りない部分に入れた状態。
インプラントの初期の安定性を示すISQ値は、2本それぞれ72と80で、良好な初期固定が得られました。
4. 2次手術:遊離歯肉移植術(FGG)
骨とインプラントがしっかり結合した後、インプラントの頭を歯ぐきの外に出す2次手術を行います。その前にヨード液で染色すると、硬い歯ぐき(角化粘膜)がごく細い帯状にしか残っていないことが分かりました。

2次手術前のヨード染色。茶色く染まった部分は動く柔らかい粘膜で、染まらない角化粘膜はわずかです。
このままでは、被せ物を入れた後に歯ブラシが当たると痛みやすく、汚れが残りやすくなります。歯周病のリスクが高いこの方には特に避けたい状態です。そこで、2次手術と同時に遊離歯肉移植術(FGG)を行いました。上あごの内側から硬い歯ぐきを採取し、インプラントの外側に移植する方法です。

インプラントの外側に、移植片を置く土台(移植床)をつくります。

上あごから採取した歯ぐき(移植片)。

移植片をインプラントの外側に縫い付けた状態。
5. 治療後の状態
治療後の結果
- インプラントの外側に、幅2mmの硬い歯ぐき(角化粘膜)ができました
- インプラント埋入から被せ物の装着まで4か月でした
移植した歯ぐきが治ったあと、2次手術の前と同じようにヨード液で染色しました。染まらない硬い歯ぐきが、インプラントの外側に帯状に広がっています。

治癒後のヨード染色。歯周プローブで測ると、角化粘膜の幅は2mmです。
歯ぐきが落ち着いたところで、最終的な被せ物を装着しました。

被せ物を装着したときの様子。

デンタルX線写真。インプラント2本の周りの骨の状態を確認しています。

現在の状態(メインテナンス時)。被せ物はネジで固定する方式のため、点検のときはネジ穴を開けて取り外せます。
系統的レビューでは、角化粘膜の幅が2mm未満だとインプラント周囲炎が多いと報告されています(Ramanauskaite 2022)。この症例では、その目安となる2mmの幅をつくることができました。今後も定期的なメインテナンスで、インプラントの周りの状態を確認していきます。
6. 症例の概要(費用・期間・リスク)
| 症例の概要 | |
|---|---|
| 患者さん | 70代女性(主訴:右下の歯を治したい) |
| 主な治療内容 | 歯周病の基本治療、抜歯即時埋入によるインプラント2本(ZimVie TSX)、自家骨とPRGFを用いた骨造成、2次手術時の遊離歯肉移植術(FGG)、被せ物の装着 |
| 治療期間 | 約4か月(インプラント埋入から被せ物の装着まで) |
| 費用(自由診療) | 合計1,617,000円(税込) 内訳:インプラント2本同時埋入(被せ物を含む)1,309,000円(税込)、骨造成(GBR・PRGFを含む)220,000円(税込)、遊離歯肉移植術(FGG)88,000円(税込) ※歯周病の基本治療(保険診療)の費用は含みません。 ※現行の料金表に基づく金額です。 |
| 主なリスク・副作用 | 手術後の腫れ・痛み・内出血、歯ぐきを採取した上あごの痛み、移植片や造成した骨の吸収、インプラントが骨と結合しない可能性、インプラント周囲炎の発症。治療後も定期的なメインテナンスが必要です。 |
7. なぜ角化粘膜にこだわるのか
インプラントの周りに動かない硬い歯ぐき(角化粘膜)が少ないと、歯みがきのときに痛みを感じやすく、プラークが残りやすくなります。系統的レビュー(Ramanauskaite 2022)では、角化粘膜の幅が2mm未満だとインプラント周囲炎が多くなることが報告されています。
当院では、角化粘膜が足りなければFGGでつくり、十分にあれば2次手術で失わないよう根尖側移動術で守ることを基本方針にしています。角化粘膜が十分にあった症例は「インプラント周囲炎の原因とは?」で紹介しています。
インプラント周囲炎を防ぐための考え方は「インプラント周囲炎にならないために」「再発防止のメインテナンス方法」もご覧ください。ほかの医院でインプラント治療を受けた方のセカンドオピニオンも承っています。
参考文献
- Ramanauskaite A, Schwarz F, Sader R. Influence of width of keratinized tissue on the prevalence of peri-implant diseases: A systematic review and meta-analysis. Clin Oral Implants Res. 2022;33 Suppl 23:8-31.
- Schwarz F, Derks J, Monje A, Wang HL. Peri-implantitis. J Clin Periodontol. 2018;45 Suppl 20:S246-S266.